花崗岩の街

言語処理学会に行くと、どうも、毎年、「ブログを更新しなさすぎではないか」との苦言を賜りますので、その前に一度更新しておきたいと思います。あまり真面目なエントリではありません。

8月に英国のアバディーン大学を訪問しました。以前、アバディーン大学の Siddharthan 先生と知り合いまして、せっかく Coling 2014アイルランドまで行くので、ということで、研究グループを訪問させてもらいました。アバディーン大学は自然言語生成の世界的な拠点の一つで、自然言語生成の第一の教科書 Building Natural Language Systems の執筆者である Ehud Reiter 教授をはじめ、有名な研究者が大勢がいらっしゃいます。

アバディーン大学の創立は、なんとまあ、1495年で、ずいぶん古い大学です。明応の政変の2年後ですから、戦国時代の最初期ということになるでしょう。古いだけあり、市街と溶け込むように大学の施設が立地していて、例えば訪問先の研究室のある施設の街路を挟んだ隣の区画はごくごく普通の民家であり、その更に向こうに街路を挟んで大学の礼拝堂があるといった具合で、古いスコットランドの街並と渾然一体となったキャンパスは実に趣がありました。訪問先の先生によれば、空き家になったところから大学が買い取っているそうで、あと100年も経てば大学ももう少し一体感を得るのではないか、ということでしたが、いやはや、なかなかこの時間感覚は日本とは異なるものがあります。大学のある地域は Old Aberdeen と呼ばれ、この周辺でも一際古い地域で、そのためか家々の戸がずいぶん小さい。これは昔の人々と現代人の体格差によるものだ、との解説を受けましたが、おそらくいまお住まいの方々はいささか苦労しているのではないかと思われます。それはすなわち往時の住居がそのまま形態で現在に残っているということでもあります。

トークそのものは、大過なく終わり、 Coling のよい予行演習となりました。アバディーン大学には、私と私の同僚が1人、あと偶然にも国文学研究資料館の野本先生がお越しになりまして、野本先生とアバディーン大学のスピーカと我々とでこじんまりとした研究集会が催されました。こういった研究集会で話をするというのもなかなかよいもので、講演者と聴衆が近く議論がしやすく、刺激になります。

その夜は市内のレストランで食事をしました。ワインなどを飲みながら、話題はやはりスコットランドの独立に及び、今となっては結果は明らかではありますが、その時はずいぶん独立派の勢いが盛んな時でしたら、訪問先の先生もいささか気を揉んでいるように見受けられました。スコットランドの大学の学術研究における予算は、スコットランドに由来するものよりもイングランドに由来するものの割合が多いらしく、独立した結果、予算がいささか逼迫することは避けられないとのことで、こういった話題はどこでも変わらないものだとつくづく思いました。トークの後に訪れた、アバディーン大学の礼拝堂の門前は、イングランドを表す獅子と、スコットランドを表すユニコーンが左右を守護しており、スコットランドが独立するとこれは左右ともユニコーンになると冗談めかしていたことが思い出されます。

時間は前後しますが、トークの前日、訪問先の先生と、まあ、飲みに行きました。スコットランドと言えばウイスキーですが、まずはビールでもどうか、ということで、ビア・バーに行きました。アバディーン市から、近くはないのですが、いくらか北に行ったところに本邦でもここしばらく有名な Punk IPA の生地があるそうで、そういったわけで Punk IPA で乾杯をし、しばらく四方山話などをしました。その後はパブに行き、スコットランドモルトをいただいたという次第で、うーん、また行きたいですね。

私が訪問したときのスコットランドには寒波が到来しており、8月にもかかわらず非常な低温でした。アバディーン市近郊は花崗岩の採掘で有名らしく、 Granite City との異名もあるようですが、帰路、底冷えのする花崗岩の街の物陰でふと思い出されたのは7年ほど前の職業選択のことで、当時の自分には研究者になる他の選択肢もありましたが、特段、強い意志に基づいてこの選択を行ったわけではないものの、あの頃の意思決定が巡り巡って、いま自分がこの寒々しい街で帰路を急いでいるかと思うと、旅の疲れと酔いに微妙な趣きを添えて、なかなか味わい深いものがありました。

非常に雑駁なことを書いてしまいましたが、むりやり、何かしら有益なことを抽出しようとすると、以下のようになるでしょうか:

  • 国際会議に通すとその原稿を読んでくれる人がいくらかはいて、その人たちと知り合いになれたりするようです(4年くらい昔に書いた論文が結構いろんな人に読まれていて、それを通じていくらか知り合いができました)
  • このような知り合いがいると、国際会議に行く時に、そういった知り合いに連絡を取り、研究室を訪問させてくれよ、と尋ね、飲みに行ったりすることができ、現地のおいしいお酒が飲めます
  • 多少は話が通じないといけないので、やっぱり現在の Lingua Franca たる英語をある程度何とか操らないといけないようです(花崗岩 granite という単語が会話に出てきたとき、日本語でもこの語は滅多に使わないし、英語で使うことはあるかなあ、とぼやきながら単語を覚えた昔の自分を思い出しました)

そういったわけで、来週の言語処理学会ではよろしくお願いいたします。水曜日のポスターセッションと、 Project Next NLP で話をする予定です。